ブックタイトル会報2020年11月

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概要

会報2020年11月

Page 2 第209号 令和2年11月発行臨床糖尿病支援ネットワーク「糖尿病治療ガイド」は1999年に初版が作製されて以来、実臨床における糖尿病治療のバイブル的存在の本です(図1)。このガイドはその後2004年に発行された、科学的根拠(エビデンス)に基づいた合理的かつ効率的で均質な糖尿病診療の推進を目的としたエビデンス中心の「糖尿病診療ガイドライン」と異なり、その時点でエビデンスまでは至らないが現実の治療実態に妥当性のある考えや、専門家などの意見を取り入れてより実臨床に使い易く構成されています。したがってこのガイドは、糖尿病専門医師や専門医を目指す若手医師、糖尿病専門ではないが実地医科の医師、あるいは糖尿病療養指導士資格を持つスタッフや実際に糖尿病患者診療に携わる多くの職種へ、日々の診療の考え方や、指導方法、療法技術などが簡潔に示されており適切なガイドと呼ぶにふさわしい内容です。糖尿病治療の考え方は医学の進歩、医療環境の変化などに応じて変化していきます。したがって本ガイドもほぼ2年ごとに改定されていましたが2020年4月に2020-2021版として発表されました。2020‐2021年版の従来から変更された点について本稿とともに数回にわたり説明をしていきます。本稿はその第1回に当たります。【2020年版の主なる改定】新たな変更は以下の4点1.最近の糖尿病診療の進歩に即した記載2.糖尿病学会と他の学会のガイドラインの整合性をとった3.新薬への対応をした4.病態やライフステージに基づいた実診療の症例の項を新設した特に、「病態やライフステージに基づいた実診療の症例」は、①診断時あるいは初期治療の場面、②定期受診における薬剤調整と指導について、③併存症を持つ患者について、④特殊な状況における対応など実臨床で想定される31の場面が代表的症例や状況を具体的に提示してあり、糖尿病の管理が様々な場面で異なることを示しています。この新たな試みは「糖尿病の病態に合わせた治療」から「糖尿病を持った人の治療」に考え方が進んでいった結果です。【病から人へ】糖尿病治療の目標は決して血糖値やHbA1cを下げることではありません。血糖値やHbA1cの管理は糖尿病で生じる様々な血管合併症を中心とした合併症を発症させない、進展させないための手段です。糖尿病治療の最終的目標は「健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持と健康な人と変わらない寿命の確保」にある、と従来の「糖尿病治療ガイド」(図2左)には謳っていました。しかし今回の改定では「糖尿病治療の目標」が大きく変わりました。最近のように糖尿病患者の年齢が上昇し、多くの患者が60歳以上となってくるとQOLを悪化させるものは必ずしも糖尿病合併症だけではありません。高齢者のQOLを最も低下させるのは、サルコペニアやフレイルあるいは転倒骨折などによる寝たき病を診るから病を持った人を診る糖尿病治療の目標が変わった[当法人業務執行理事]東京医科大学植木 彬夫 [医師]特別企画「糖尿病治療ガイド」改訂版解説シリーズ①