ブックタイトル会報2019年7月

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概要

会報2019年7月

第193号 令和元年7月発行 Page 1臨床糖尿病支援ネットワーク[当法人理事]東京都立多摩総合医療センター辻野 元祥 [医師]その人にとっての幸せは何か“mano a mano”とはスペイン語で“手から手へ”という意味です読んで単位を獲得しよう西東京糖尿病療養指導士(LCDE)は、更新のために5年間において50単位を取得する必要があります。本法人会員は、会報「MANO a MANO」の本問題及び解答を読解された事を自己研修と見做し、1年につき2単位(5年間で10単位)を獲得できます。毎月、自分の知識を見直し、日々の療養指導にお役立てください。(「問題」は、過去のLCDE認定試験に出題されたものより選出、一部改変しております。)問題 肥満者に対する減量指導について誤っているのはどれか、2つ選べ。(答えは3ページにあります。)1.25kcal/kg標準体重から始める2.通常減量速度は1か月1kg以内とする3.高度肥満の場合、体力維持のため現体重1kg当たり25 kcalは摂取するようにする4.外来で行う場合には1日1,200 kcal以上摂取する5.肥満糖尿病において、しばしば肥満を解消するだけで血糖コントロールが改善する多摩地区に着任してから早や23年が経ちました。循環型医療連携の有難いのは自分の関わった患者さんの超長期的予後を高い精度でフォローできることです。長いおつきあいから教えられることは、HbA1cが多少不良でも合併症が進まない事例も多い一方、HbA1cが良好でも認知症、がん、脳卒中の発症は一定割合で生じるという事実です。例えば、平均でHbA1c9.8%と7.8%の予後は網膜症や腎症、さらに大血管症についても違います。しかし、7.8%と6.8%の予後の差についてスモールコホートで体感することはありません。糖尿病専門医の本能として、HbA1c9%超からの1%以上の挽回にはエネルギーを注ぎますし、血圧、脂質の管理は万全を期しますが、深押しした場合の改善効果は絶対的なものとはいえません。糖尿病診療に携わるわれわれは、ともすると血糖を絶対視した価値観を求めがちですが、血糖の改善だけが患者さんを幸せにするわけではありません。むしろ、人生の充足感や幸福感こそが、HbA1cの多少の差に関わらず、健康長寿につながるのではないか、という気がしています。もし、本当にそうだったとしたら、われわれの役割はどこにあるのでしょうか。心がけていることの一つはHbA1cの絶対値よりもHbA1cの動きの裏側に何かしらの患者さんの心の動きがないかどうかを会話から探り、話を聴くことです。必ずしも数値化できない心の変化がHbA1cの動きにリンクすることがしばしばあります。根拠のない心配事には大丈夫ですとお話します。診察室のほんの数分でも心の負担を取ることが叶うなら、今後著しい勢いで進展するAIにも負けはしないと思っています。経営上の問題とはいえ、膨大な流れ作業のような外来のClinical Inertiaが患者さんを幸せにできるとはつゆにも思いません。循環型医療連携の推進はそれに対する答えの一つであるかもしれません。今まで良好だったHbA1cが急に悪化し、長谷川式も悪化せず、整容もOKなのに、実は生活が崩壊しており、認知症の進行が明らかとなった事例もあります。離れて暮らす家族が全くそのことに気づかず、あえて厳しい言葉でアラートを伝えることや繋がり無く離散していた家族を呼び寄せることもあります。この場合は生活基盤の立て直しが急務となります。介護度の高い状態に移行した患者さんにとってHbA1cの絶対値はそう大きな意味を持ちません。その人にとっての幸せは何か、を考えることが診察室での一大事となります。ちょっとした言葉のキャッチボールから、こちらが束の間の幸せをいただくこともあります。患者さんの方も幸せのキャッチボールにはきわめて鋭敏です。さらに言えば、良い医療の提供には、チームの幸福感も大きな意味を持ちます。チームが幸せになるための絶え間ない営みが回り回って患者さんに届く、そんなユートピアがあまねく実現することを祈ります。